MOFAF

朝日新聞社 2008年10月25日

http://www.asahi.com/showbiz/movie/TKY200810250124.html

　「ハリウッド・メジャー」と言われる米国の大手映画会社。洋画の配給が主業務だったその日本法人が、最近は邦画の製作や配給に積極的に乗り出している。洋画は当たり外れが大きく、近ごろ好調な邦画業界に食い込みたいとの思惑があるようだ。

　今月１５日、東京・西新橋のワーナー・ブラザース映画の試写室に社員が集まった。伊藤英明、内野聖陽主演、１２月公開の邦画「２５２　生存者あり」の予告編をチェックするためだ。

　昨年、邦画の企画や製作などをするローカル・プロダクション（ＬＰ）を担う部署を強化。今年の公開作では、「２５２」を含め計６本の邦画の製作、配給にかかわっている。このうち映画「デスノート」のスピンオフ（本編の登場人物を起用した派生作品）「Ｌ　ｃｈａｎｇｅ　ｔｈｅ　ＷｏｒＬｄ」は約３１億円の興行収入を稼いだ。

　組織改編について、小岩井宏悦・ＬＰ本部長は米国本社の世界戦略だと説明する。

　「海外では、テントポール作品（巨費を投じた看板作品）は成功しても、それ以外がうまくいかないことがある。ＬＰでそこを補っていくというのが本社の考え」

　日本で洋画を取り巻く環境は厳しい。日本映画製作者連盟によると、今年の累計興行収入は９月末現在、邦画が大手３社で約８１７億円と前年同期に比べて３割増。対して洋画はメジャー５社で約４１８億円と、前年同期の６割程度に過ぎない。

　公開作品でも、「崖の上のポニョ」が約１５０億円、「花より男子ファイナル」が約７６億円、「劇場版ポケットモンスター」が約４７億円などと邦画は好調だが、洋画で５０億円を超えたのは「インディ・ジョーンズ　クリスタル・スカルの王国」だけという寂しさだ。

　小岩井本部長は「十代の若者は邦画をよく見ている。この世代には今後、映画イコール邦画という感覚が根付く可能性がある」と、将来の市場の変化を視野に入れる。

　今年はテレビ局主導の作品への出資が中心だが、来年からは同社の企画が登場する。「テレビ局との関係を大事にしつつ、ハリウッドのワーナーらしい企画の開発に力を入れたい」。月１本ペースでの邦画公開が目標だ。

　ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパンの邦画第１作、昨年公開の「どろろ」は約３５億円のヒットになった。秋山玄社長は言う。「日本市場で約半分ものシェアを占める邦画に食い込みたい。そこから１、２％でも取ってこいと本社からも指示されている」

　武器は、洋画で培ったマーケティングやＰＲ手法、海外での配給力だという。昨年暮れに公開された邦画「ミッドナイト　イーグル」では日米同時公開を実現。本社には昨年、海外の現地法人との調整をする国際部門が新設され、各国の市場動向に合わせた編成やＬＰ作品の海外配給に力を注ぐ。

　東京都内で５月、米英で活躍するゲイリー・オールドマンと、椎名桔平が「レイン・フォール／雨の牙」（来年公開）の撮影に臨んだ。俳優やスタッフの一部は外国人だが、れっきとした邦画。ソニー・ピクチャーズの日本法人が中心となって製作する。

　「邦画人気といっても、映画人口自体は増えていない。市場を刺激するような作品を送り出していきたい」と語るのは、映画部門日本代表の佐野哲章（のりあき）・執行役員だ。

　ワーナーやソニーは過去にも邦画の製作にかかわったことがあるが、ヒット作が出ず長続きはしなかった。当時と今との違いとして関係者が口をそろえるのは、米国本社の姿勢の変化だ。佐野氏は「今回は親会社の１００％のバックアップがある」。

　他のメジャーでは、２０世紀フォックスが邦画の配給を手がけるほか、パラマウントは来年、「ゴースト／ニューヨークの幻」の日本版リメークを機に参入する。（高橋昌宏）

　　　　　◇

キネマ旬報映画総合研究所の掛尾良夫所長の話

　シネコンの台頭で、二極化が進んでいる。「ハリー・ポッター」「パイレーツ・オブ・カリビアン」など大作はヒットするが、中規模以下は難しい。テレビドラマの劇場版映画の恒常的なヒット、急激な少子高齢化による客層の変化といった日本特有の事情が、米国発の映画を受け入れにくくしている原因だろう。

　ハリウッド・メジャーの収入の６割程度を海外市場が占めている。中でも世界２位の規模の日本で洋画のシェアが落ちるのは痛い。ならば邦画をという考え方が本社に出てきたのではないか。成功するかどうかは、本社側が短期間に結果を求めず、日本の製作習慣をどれだけ理解できるかにかかっている。